VI-ビジュアルアイデンティティ- / アウターブランディング / プロモーション
電子ピアノの“あたりまえ”を、つくり直す。
- CLIENT
- 株式会社河合楽器製作所
- 成果物
- ブランドコンセプト タグライン ストーリーブック ブックスタンド POP
OVERVIEW
河合楽器製作所さまは、1927年に創業されたフルコンサートピアノから電子ピアノまでピアノを一途につくり続けてる日本の楽器メーカーです。創業者でもあり、ピアノ製造技師でもある河合小市氏の「安さを求めて性能は妥協しない姿勢」は、今でも、河合楽器製作所さまのピアノづくりにしっかりと受け継がれています。かつて、世に出る自社製品はすべて小市氏自ら最終チェックを行っていました。発明家、技術者としてピアノ作りに生涯を捧げた小市氏の精神が、今の河合楽器製作所さまのピアノ一筋に細部にまでこだわり続けるひたむきな姿勢につながっています。
伝統的なアコースティックピアノでは、熟練の職人技と最新技術を融合させ、高品質な音色と表現力を追求。電子ピアノやデジタル楽器分野でも、先進的な技術を活用してリアルな音やタッチ感を再現し、さまざまなニーズに応える製品を提供しています。「音楽を通じて人々の暮らしを豊かにする」という企業理念のもと、初心者からプロフェッショナルまで、すべてのピアノ演奏者に寄り添い、ピアノに向き合い続けるブランドです。
お客様からは、電子ピアノCNシリーズ(CN201)の販売台数増加を目指したリブランディングのご依頼をいただきました。CN201は、初心者にも手が届きやすい価格帯のエントリーモデルで、河合楽器製作所さまの製品の中でも市場でシェアを伸ばしているモデルです。しかし、国内市場では競合製品のシェアが高く、この状況を覆すには市場がコモディディ化していて差異化が難しいことが課題となっています。
今回のリブランディングでは、「CN201の新しいコンセプトがしっかり届き、商品の価値が伝わっている状態を作る」ことを目的とし、競合との差別化ポイントを改めて整理・言語化して、消費者に伝えるアプローチを共に考えていくことになりました。
全体概要
課題/ご提案・プロセス
今回、CN201のリブランディングにあたり、ご相談を受けてから、3つの課題を立てました。
①電子ピアノ業界での競合との差別化
②ターゲット表現や世界観と現代との乖離
③河合楽器さまの理念をCN201と繋げてお客様に届けること
<①電子ピアノ業界での競合との差別化>
電子ピアノ業界はコモディティ化が進み、製品の差異化が難しく、消費者が価格で判断しがちです。機能よりも体験価値が求められる今、企業にとって独自性や付加価値の提供が重要となっています。河合楽器製作所さまには「KAWAIだから選ばれる」という独自性のある価値で選ばれるようなアプローチが必要でした。
②ターゲット表現や世界観と現代との乖離
業界調査を行なってみたところ、業界全体に、少し昔に遡ったような世界観や、お金持ちしか弾かないのではと思わせるようなクリエイティブの印象がありました。ピアノが一部の層に限定されるようなイメージが強く、共感を生みにくい現状があることがわかりました。実は誰もが楽しんでいいピアノのはず。実際の購入層に「これは私に必要だ」と共感してもらえるようにコミュニケーションの距離を埋める必要がありました。
③河合楽器さまの理念をCN201と繋げてお客様に届けること
河合楽器製作所さまが伝える理念が、CN201だけでなく商品全体からとても遠い状態になっているという現状がありました。河合楽器製作所さまの想いを受けて生まれた商品をしっかり繋げてあげるだけで、ファンは自ずと創出されると考えました。
成果
今回課題として感じた『電子ピアノ業界のコモディティ化』に対して、「世界観を持ってお客様に届ける」という今までの業界にはなかったクリエイティブコミュニケーションを実現。自分たちが届けたいものを機能だけに絞らず、どんな想いに共感して商品の価値を受け取ってもらうかを考え、一貫した世界観のもとお客様へと商品の価値を伝えることができる一連の流れを設計しました。
また、CN201という製品だけを見るのではなくもっと広く多角的に製品に向き合ったこと。
創業者の意思や河合楽器製作所さまの歴史から、実際のピアノの制作現場やピアノに関わる方々の熱い想いに直接触れて、広い視野で製品に対してアプローチできたことで、今回想定していなかったCN201だけにとどまらず、CNシリーズのコンセプトまでをも生み出すことができました。
そして、河合楽器製作所さまの「音楽を通じて人々の暮らしを豊かにする」という理念を体現している商品であることを結びつけることができたプロジェクトになりました。
どんな人たちにこのピアノに触れてもらいたいか、触れたことでどんな気持ちになって欲しいのか。ピアノがその人たちの暮らしの中にあることを想像しながら、世界観を生み出し、そこにある豊かさを丁寧にクリエイティブに反映していきました。
プロセス
①全体設計/②キックオフ/③ヒアリング・アンケート・視察/④情報整理・分析/⑤コンセプト・タグラインのご提案/⑥クリエイティブツールの設計・ご提案/⑦クリエイティブツールの制作・商品撮影/⑧制作物の店頭展開
プロセスの詳細
<①全体設計/②キックオフ/③ヒアリング・アンケート>
このフェーズでは、①市場の調査・課題抽出、②河合楽器製作所さまだからこそ生み出せる価値の発見、この2つを目的としました。
私たちは、関わるすべての人との関係構築を大切にしており、プロジェクトのスタート時には必ずキックオフを行います。このミーティングで、まずは「ブランディングとは」というお話をします。ブランディングというふわっとした言葉を共通言語を持って理解していただいてから、ギフトとしてどう形にしていくのかを話すことで、目線の揃ったコミュニケーションを実現しています。また、ブランディングというよくわからないものをギフトとしてどう形にしていくのかも分かりやすく説明しています。
そのほかに、ブランディングの方向性やギフトの組織体制、プロジェクトの目的・ゴールを整理し、関わるメンバーの認識を合わせた状態でプロジェクトを開始します。
プロジェクトに参加していただいたメンバーは、マーケティング部や経営戦略、デザイン室、開発企画など多岐にわたります。様々な視点を引き出すために、プロジェクトメンバーに加え、上流から下流まで商品に関わる他の方々にもアンケートやヒアリングを実施しました。
同時に、ピアノ業界、市場の現状やトレンドの分析を行い、河合楽器製作所さまの歴史を深掘りしてルーツを探る情報整理・分析も行いました。これらのプロセスを通じて、創業時からの「安さを求めつつ性能に妥協しない姿勢」と、現在のKAWAIのスローガン「もっと伝えたい、感動を。」という熱い想いがしっかりと社員の方々に根付いており、商品にも反映されていることが確認できました。一方で、機能ばかりが前面に出ている現状もあり、河合楽器製作所さま独自の想いが十分に伝わっていないことが浮き彫りになりました。
—「安さを求めつつ性能に妥協しない姿勢」:メッセージ抜粋箇所—
美しい音楽を耳にしたときの感動、初めてピアノを手にしたときの喜び、弾けなかった曲が初めて弾けたときの満足感を、世界中のお客様に伝えたい、そして、お客様とともにその感動を分かち合いたい、そんな願いを込めています。
https://www.kawai.co.jp/brand/philosophy/ ※コーポレートサイトより
1927 年、河合小市が仲間と共に創設した「河合楽器研究所」。工場とも呼べない小さな倉庫からの出発であったが、そこには「ピアノづくりにかける熱い想い」という大きな資本があった。庶民には手が出なかったピアノのイメージを覆す、安さを求めて性能は妥協をしない姿勢、それはまさに技術者としてのプライドだった。
https://www.kawai.co.jp/brand/Legacy ※コーポレートサイトより
<⑤コンセプト・タグラインのご提案/⑥クリエイティブツールの設計・ご提案>
ここでは明らかになった課題を解決するために、河合楽器製作所さまにしかない価値や強みをコンセプトとして開発しました。また、策定したコンセプトをどのように届けるかについても、販促ツールは何が一番店頭で有効なのかを考えるところからご一緒しました。
今回の課題を踏まえ、「エントリーモデル」からの脱却、そして創業時からの「美しい音楽を耳にしたときの感動、初めてピアノを手にしたときの喜び、弾けなかった曲が初めて弾けたときの満足感を、世界中のお客様に伝えたい、そして、お客様とともにその感動を分かち合いたい」「庶民には手が出なかったピアノのイメージを覆す」ことやKAWAIのスローガン「もっと伝えたい、感動を。」をしっかり込めた新しい言葉を生み出すことが「CN201」の新しいコンセプトになると考えました。
単語一つ一つのニュアンスの違いを丁寧に話し合い、本当に伝えたいことやお客様に感じてほしい世界観を探りながら、ブランドとして掲げる言葉を決めていきました。最終的に決まったコミュニケーションコンセプトは『はじめての「好き」をつくるピアノ。』です。
プロジェクト初期の段階では、『はじめての「感動」をつくるピアノ。』という案もあり、「感動」と「好き」の単語の違いを細かくディスカッションしました。
『「好き」という単語は、「感動」よりも感覚的に敷居を下げて幸せを表す感情だと感じる』という意見。一方で、『「感動」の中に「好き」がある。KAWAIのものづくりがあるからこその、感動。それを言う資格がある。』という意見。
さまざまな意見が飛び交っていた中で、メンバーの方から「親は感動ではなく、子どもに何か好きなものを見つけてほしいと願っている」という意見が出て、メンバー全員が心にグッときて「好き」という言葉に共感し、それが決め手となりました。
また、CN201は「ピアノをはじめる人そのものを増やしていくことができるピアノ」でもあるかもしれないと感じました。音楽で得られる感動を、もっと近くに。そこにあるべきは、ピアノを一途にやってきた河合楽器だからこそ生まれた電子ピアノ。誰もが感動を感じられる、技術力の結晶と使い手への配慮。例えば、一家に一台必ず冷蔵庫を買うように。お家に住むなら、なければならない「必然の存在」になりうることもできるのではないか。そう思い、「もっと感性に訴えるコミュニケーション」をすることでピアノ人口を増やしていく、その夢を担える技術とアイデアがこもった存在であるというところから、ギフトからは『家族の一韻』というコンセプトもご提案。
この言葉はCN201に限らず広い範囲で使えるコンセプトであるため、CNシリーズ全体のプロダクトコンセプトとして採用することになりました。
CN201のコミュニケーションコンセプト『はじめての「好き」をつくるピアノ。』は、店頭やWebサイトで購入を検討する人に手を振り、背中を押す存在として。CNシリーズの全体のプロダクトコンセプト『家族の一韻』は、長期的なピアノ人口の増加の展望を夢見る存在として。それぞれの言葉が、CN201に込められた想いをしっかりと反映する形になりました。
さらに、できたコンセプトをどうお客様に届けるか、そして「ブランドを長く生きさせるためにはどうすればいいか」という議論も行い、製品の長期的な育成に関する提案を行いました。お客様が「商品を目にする」瞬間から「ファンになってもらう」までの流れをしっかり想像し、必要なステップを描き出して、私たちとご一緒する範囲だけでなく、河合楽器のみなさまが今後どう動いていく必要があるかを見据えて話し合いを続けていきました。
具体的には、コンセプトに基づいたWeb(特設サイト)、ストーリーブック、ブックスタンド、POPなどのクリエイティブツールをご提案しました。これらは、お客様に一貫した世界観を届けるためのコミュニケーション設計に基づいています。コミュニケーションツールにはそれぞれ役割があり、異なります。WEBを見る人、冊子を見る人、店頭に来た人、それぞれのフェーズに的確に刺さるツールであるようにコミュニケーション設計を行い、実装しています。
単なる点の制作ではなく、お客様が商品に触れるすべての場面を想像し、企業の未来を見据えた提案を行っています。
<⑥クリエイティブツールの設計・ご提案/⑦クリエイティブツールの制作・商品撮影/⑧制作物の店頭展開>
クリエイティブツールを作るだけで終わるのではなく、その一つ一つがどのような役割を持って商品の価値を伝えるのかを明確にすることを意識しました。
KVは製品を魅せることが目的ではなく、まずは店頭で興味関心を持ってもらうような、日常に溶け込んで、CN201が家にある家族が日々感動に触れられるという価値を見せるように設計。
また、CNシリーズ全体のプロダクトコンセプトである『家族の一韻』から、なるべくリアルな家族を描きたいと考えました。プロのモデルを使ったただ綺麗なものではこのコンセプトを表現することが難しかったため、一般の方を採用し、普段生活していらっしゃるお家をお借りして撮影を進めました。撮影の布陣に関しても、今回のコンセプトから感じる家族の愛情や包み込むような優しさの表現を切り取るカメラマンをアサイン。実際の撮影でも、和やかな環境の中、子どもたちはカメラに向けても自然体で撮影に臨んでくれました。
Webサイト(特設サイト)では、できるだけ世界観にのめり込んでもらうこと、その過程でWebサイトから離脱せずに最後まで目を通してもらう設計をしています。冒頭は、ひとつの家族のストーリーを読み進めるところから始まります。ここで、CN201とともにある暮らしに入り込んでもらうことを想定し、内容を組み立てていきました。また、Webでの画面遷移をできるだけ減らすために、モーダルウィンドウを採用し、Webサイトの離脱率を下げるように設計をしています。
ストーリーブックは、全国各地にある家電量販店・楽器量販店、直営店に展開する冊子ですが、原価は決して安くはありません。そこには、持って帰っていただいた時に、カタログのような比較検討のツールということではなく、絵本のようにこの冊子が残って欲しいという想いがありました。
ブックスタンドは、高さのあるスタンドを採用。最上部にあるKVの表情を際立たせ、店頭で目をひく設計をしており、POPの役割も果たすように設計。また、スタンドの内側には、店頭で冊子がなくなった時でも同じ世界観を受け取ってもらうためのメッセージをおいています。
CN201のモノの良さが評価され、全国の楽器店員とお客様が選ぶ「楽器店大賞2024」商品部門:ピアノ(電子ピアノ・キーボード)部門にて大賞を受賞。
https://www.zengakkyo.com/gakkitentaisyo/award-results/index.html